カレリア語でつくる映画作品
私たちのプロジェクトは、教育を目的とした非営利の民族誌芸術映画シリーズを制作するものです。三作品から
成るこの映画シリーズは、全編にわたりカレリア語で制作された初めての映画作品でもあります。
カレリア語は、少なくとも 1,300 年前には独立した言語としての地位を確立していましたが、フィンランドにお
いては未だ法的な地位を与えられていません。現在、フィンランドに暮らすカレリア語母語話者はおよそ1万人、
教育等により理解する者は約 2,000 人です。ロシアには 10 万人弱のカレリア人がおり、そのうち約 5 万人がカ
レリア語を話します。私たちの映画プロジェクトは、カレリアにバックグラウンドをもつ人々の文化的自尊心を
高め、カレリアの伝統や言語を保持し、育むことを目的としています。さらにはカレリア文化への関心を呼びお
こし、カレリア語の活性化に貢献するとともに、現状に関する議論を深めることも目指しています。
映画では、カレリアの文化と伝統における通過儀礼、およびその儀式の中で行われる「号泣」、いわゆる「泣き
歌」の重要性を描いています。通過儀礼において女性が果たす役割の重要性も、大切なテーマの一つです。第1
作目『VENEH(小舟)』(2016)は、カレリアの“嘆きの婚礼”に焦点をあてた作品です。映画では、伝統儀礼にも
とづき花嫁が生家で過ごす最後の夜を詩的に描き出しています。第2作目『LINDU(小鳥)』(2021)は、死にま
つわる伝承と儀式を扱った作品です。亡くなった男の魂が故郷へと戻り、「魂の鳥」に導かれもう一つの世界へと
旅立つ姿をたどります。映画のナレーションはカレリア語リッヴィ方言で語られ、フィンランド語、英語、日本
語の字幕でお楽しみ頂けます。
それぞれの作品はまず、フィンランドやヨーロッパ各地で開催されるフェスティバルやイベントを巡回します。
上映時にはレクチャー&ディスカッションが伴い、観客は映画を楽しむとともに、カレリアの言語と文化に関す
る知識を深めることができます。巡回上映の後、各作品は動画共有サイト Vimeo を通して誰もが視聴できるよ
うになります。先に述べたように、私たちのプロジェクトは教育を目的とした非営利の活動です。各地に住むカ
レリア人が、カレリアにルーツをもつ人が、あるいはカレリアに興味をもつ世界中の多くの人が自由に映画を楽
しみ、カレリアの素晴らしい文化に触れてくれることを心より願っております。
映画三部作のコーディネーター、脚本、監督を務めるのは、ダンスアーティストのユルキ・ハーパラ(Jyrki
Haapala)、撮影はビジュアルアーティストのテロ・プハ(Tero Puha)、音楽はフォークミュージシャンであり、
作曲家のサイヤ・テイリカンガス(Saija Teirikangas)が担います。ロバート・トービン(Robert Tobin)、ミン
ナ・カルットゥネンが脚本・制作アシスタントとしてチームを支えます。